映画 「ピアノフォルテ」

2025年9月26日(金)

ネタバレ記事です。閲覧ご注意下さい

今日は恵比寿ガーデンシネマで公開中の映画 「ピアノフォルテ」を観て来ました。
まもなくワルシャワで5年に1度開催されるショパン国際ピアノ・コンクールが始まりますが、
本作は、反田恭平さん(2位) と小林愛実さん(4位) の日本人ふたりが入賞した
2021年 の第18回コンクールの舞台裏に密着したドキュメンタリー映画です。
(第18回は2020年に開催予定でしたが、コロナ禍のため1年延期されました)


カメラが追いかけるのは、ロシア・アルメニア出身の 17歳 エヴァ、
イタリア出身の 25歳 ミシェル 、イタリア出身の 29歳 レオノーラ、
イタリア・スロヴェニア出身の 26歳 アレックス、地元ポーランド出身の 25歳 マルチン、
中国出身の 17歳 ハオ の6名が中心です (赤字 は、ファイナルまで進んだピアニスト)。

世界最高峰といわれる音楽コンクールで彼らが味わう想像を絶するプレッシャー。
その先にある歓喜や栄光あるいは挫折。
彼らを支える家族や指導者との関係性、ピアノのために諦めてきたもの．．．
をカメラは克明にとらえていきます。


大人びて見えてもエヴァは17歳。
大切なピアノ選びでカワイの音に魅了されるものの
「怖い。あの鍵盤で弾いたことないもの。2日じゃ足りない」
エヴァの先生はナーバスになっている彼女を励ますとか温かく包み込むというタイプではなく、
残酷なほどの厳しい言葉を浴びせます。鬼婆．．．(失礼！ 私の心の声)
微に入り細にわたる指導は "徹底的" というよりも 「執拗」。
弾いている手の上に自分の手を置いて指の形の悪さを指摘。(それ今する? みたいな)
そのままバーンて手を叩くのでは? と思ってこちらが息苦しくなりました。


一方、同じ17歳のピアニスト ハオ・ラオと先生の関係はエヴァと真逆で、
ハオ君のことが可愛くて可愛くて仕方ないという感じの先生と彼はまるで親子のよう。
彼が他のコンテスタントと話をする場面は一度もなく、ずーーっと二人の世界。
中国の家では両親がサポートしているようで、
30時間かけて電車を乗り継いで音楽会へ行ったり、先生の指導を受けに行った時の切符は
お母さんがアルバムにびっしり貼って記録しています。


アレックス(写真左端) は自分を客観的に見ることができる大人なコンテスタント。
先生との関係も非常に穏やかです。
彼は最終的に反田さんと2位タイに。
余談ですが、2025年11月にはスロヴェニア・フィルと来日公演が決定しています。

レオノーラ (グリーンのドレス) は誰とでも仲良くできる明るい社交的な人。
コンテスタント仲間で食事に行った時、お店にあったピアノで
「こんな曲も弾けるのよ」と笑いながらヘビメタを披露。

映画には登場しませんが、2次予選に進出した医学生・沢田蒼梧さんや、
セミファイナリストになった角野 隼斗さんは 「二刀流」が話題になりましたけれど、
クラシックピアノ以外の何かでバランスをとるのが上手な人、
というのがレオノーラの印象です。
最終的に彼女は、イタリア人女性として初めて5位入賞という快挙を成し遂げました。


開催国のコンテスタントとして ポーランド国民からの期待を背負うマルチン。
「ゲーム機が欲しいんだ。2日だけでいいからピアノ以外のことをしてみたい」
今までどれほどのことをピアノのために諦めてきたのかと胸が締めつけられました。

1次予選の時は、元気よく階段を駆け上がって舞台へ立った彼でしたが、
次第に口数が少なくなり、カメラもその姿を追うだけになっていきます。
2次予選のすべての演奏が終わって、いよいよ彼の番になりますが
舞台裏の彼は 「弾けない。棄権する」と事務局の人に告げます。
「体調不良のため棄権とアナウンスをして良いか?」と訊かれ 「それでいい」と。


1次、2次と予選が進むにつれて先へ進めなかったコンテスタントたちは続々と
帰国の途につきますが、その中のひとりが空港のロビーにピアノがあるのを見つけ、
ショパンを弾き始めます。
その悲しく美しい音色に泣きだす女性もカメラはとらえていました。

「ノクターン第8番」が穏やかに流れるなか、
コンクールが終わったあとの若者たちの悲喜こもごもの表情をとらえて映画は終わります。
美しく切ないドキュメンタリー、上映館は少ないですが是非！

2021年、第18回ショパン国際ピアノ・コンクールで優勝を果たしたのは、
中国系カナダ人の ブルース・シャオユー・リウさんでした。
下の写真はポスターにも使われているのですが、リウさん?
リウさんは初めてファツィオリを使った優勝者だったから違うかもね。
スタインウェイだから角野さんかも?

そういえば今年のショパンコンクールでは半世紀ぶりにベヒシュタインが復活して、
ピアノはスタインウェイ、ヤマハ、カワイ、ファツィオリ、ベヒシュタインの5社だそうです。


10月2日から始まる第19回ショパン国際コンクールでは、
春の予備予選通過者66名と予選免除者19名を合わせた計85名の出場が予定されており、
日本勢は13名。その中には第18回でほぼ完璧な演奏だったにもかかわらず、
第2次予選で敗退した牛田智大さんも！
亀井聖矢さんは春の予備予選で落ちてしまったので姿は見られませんけれど、
その後のエリザベートで5位に入賞されましたものね。
今回の出場者リストを見ると、映画「ピアノフォルテ」に出ていた中国のハオ・ラオさんや、
いつもニコニコ笑顔でピアノを弾くのが楽しくてたまらないという感じの韓国イ・ヒョクさんも
ワルシャワに帰って来るようです。
楽しみです♪